Tacta

大矢部みどりの公園

 

神奈川県横須賀市の「大矢部みどりの公園整備・運営事業」において、2025年10月に弊社が建築設計を担当するグループが選定されました。

令和10年4月の開業に向けて事業者、施工者一体となりながら設計を進めていきます。

https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/5560/kouen/ooyabe_koubo.html#secchitouyoteisya

 

 

 

歴史、自然、人をつなぐ、ウェルビーイング・プレイス

 

公園整備の対象地である大矢部弾庫跡地は、国有地かつ弾庫跡地という特性から長年にわたり開発を免れ、宅地に囲まれながらも86年間ほとんど人が立ち入ることのなかった、稀有な自然環境を有しています。
大矢部エリアは平安時代末期から鎌倉時代にかけて三浦一族の本拠地として栄えた地域です。

対象地内に位置する「円通寺跡」は平安時代末期に初代三浦家当主・三浦為道によって開基されたと伝えられております。
さらに「円通寺」の奥には、横穴式の納骨窟である「深谷やぐら郡」が存在し、弾薬庫として使われるまでは為道公や、三代当主義継公が安置されていました。これらは、三浦半島、三浦一族の隆盛を語る上で非常に重要な歴史遺産です。

 

今回、横須賀市が対象地を取得し、Park-PFI制度、DB制度、指定管理者制度を活用することにより、「大矢部みどりの公園」として整備する公園整備・運営プロポーザルが実施され、株式会社日比谷花壇を代表企業とした「大矢部オープンゲートプロジェクト」が設置等予定者として選定されました。

 

公園の機能として、4000㎡の芝生広場や子どものための広場、日常時は休憩場所やイベントが開催される大屋根など賑わいをもたらす公園機能が求められる一方で、豊かな緑の中で心身を整えるマインドフルネス施設の設置や、三浦一族の歴史を感じ史跡を保護していくことも重視されていました。

我々は長く閉ざされてきたことで守られてきた環境や土地の記憶を活かし、「人と人」「人と自然」「人と歴史」を結ぶ、ウェルビーイングな体験の場として、地域に開かれた新しい公園像を提案しました。

 

株式会社Tacta建築設計事務所は、プロジェクトの構成企業として公募時点から参画し、歴史や自然が残る対象地に対して、園全体の配置計画や建築設計(休憩や歴史展示・飲食機能を持つコミュニティ施設、防災拠点となる大屋根)を担当しています。

 

 

歴史性を強調する公園計画と建物配置

 

本計画では、長年人が立ち入っていないという稀有な自然環境や、谷戸が浸食して生まれた「土」の漢字に似た特徴的な平場の形状、三浦一族への歴史性を最大限尊重し、いかに後世に伝えていくかということを重視して建築物の配置・設計を進めました。

 

谷戸が集まってくる敷地南側からは、最奥の斜面地に残る三浦一族の遺構まで一直線に視線が通ります。その場に立つと、歴史性を知らずとも「何かがある」と感じられる気配が漂っています。

かつてこの地が海に近く、複雑な地形や象徴性から、三浦一族の拠点や陵墓が築かれたことが自然と理解できる環境が残っており、公園の整備によってその象徴性を損なうことはあってはならないと感じました。

そこで、やぐら群から手前の広場までを貫く一本の「歴史の軸線」を計画の中心に据えました。軸線を包み込むように左右に建物を配置し、にぎやかさや対象の異なるエリアを緩やかに分けています。

建築は木造平屋としてボリュームを低く抑え、建物背面の広場には植栽帯を計画することで、敷地奥からは建築の存在感を薄めつつ、四方を緑に包まれる静かな空間を形成しています。

 

建物奥のエリアには、来園者と育てていく田畑を中央に配置し、庭園の周囲を回遊するように人の動線を作りました。

公園のコンセプトに据えた生きる力を育むことを象徴すると同時に、神社の参道のように中心から外して人の回遊動線を作ることで、背後に控える三浦一族への敬意と畏れをより一層感じられる構成としています。
  

この地を訪れる方々に、一番奥に何かがあるという神秘性や畏怖の感情を想起させる公園計画とすることで、自然と歴史への関心が深まる公園づくりを目指しましています。

土地や地域・歴史に対して関心を持つ人が増えていくことこそが、この場所が20年という事業期間を超えて、現在の姿を残していくことにつながると考えています。
 

 

環境に馴染むコミュニティ施設

 

休憩スペース、歴史展示スペース、レストランや物販等から成るコミュニティ施設は、左右から迫る丘の等高線を延長したような、八の字型を描く二つの木造平屋で構成されています。

公園の中心部に機能をまとめることで、初めて訪れる来園者でもわかりやすい明快な動線を作ります。
 

建物は同一架構の連続としてコストを抑えつつ、機能に応じて少しづつ建物をずらし、端部の形状を半円形にすることでシンプルながら柔らかい表情を作ります。

切妻屋根の軒先の高さを引く設定することで、周囲の自然の中に馴染む佇まいを目指しました。

その一方で、中央を貫く「歴史の軸線」を両側から包み込む配置とすることで、三浦一族の歴史の軸線を穏やかに際立たせています。
 

方杖を用いた構造により、両サイドに柱を落とさずに2m以上の深い軒を実現。

広大な公園の中で屋外空間をより心地よく楽しめるよう、風が通り抜ける軒下にベンチスペースを多く設けました。

来園者が自然の中でゆったりと過ごしながら、特徴的な自然との一体感を最大限享受できるようにしています。

 

 

防災拠点/日常の賑わいを生み出す木造大屋根
 

公園の要綱では、防災拠点として機能する大屋根の設置が求められました。

非常時にスムーズに活用できるよう、駐車場の近くに配置し、前面の広場や駐車場と一体的に使える構成としています。

日常的な休憩利用やイベント利用の際にも、搬入や動線がスムーズで、運用がしやすい計画としました。
 

一方で、高さ6m以上かつ1000㎡の大規模な施設は公園の中でかなりの存在感となります。

敷地の奥とつながる「歴史の軸線」からは外した位置に計画し、静寂さを重視する奥のエリアからは、存在感の強い大屋根を見えないように配慮しています。
 

公園の顔となる大屋根は、大断面集成材を使った木造による計画としています。

ブレースによって壁を設けない開放的な建ち方で広場と屋根下を一体化し、コストを抑えながらも、木のぬくもりに包まれた温かみのある空間を目指しています。

 

 

Site : 神奈川県

Year : 2025

Total floor area : 1600㎡

Structure : W
 

代表企業、事業者 : 株式会社日比谷花壇

指定管理業務 : 京急サービス株式会社 京浜急行電鉄株式会社

企画マネジメント : dot button company株式会社

設計統括、外構設計 : 株式会社ランドスケープデザイン

測量設計 : 有限会社三浦建築測量

工事統轄、土木工事 : 株式会社丸孝産業

建築工事 : 株式会社大神